認知症を引き起こしている母のストレスはいろいろある。
その中のひとつに、自分が生んだ子供達に対する不憫な気持ちというのがある。
次男だけは一流高校一流大学・大学院を経て一部上場企業の正社員となり結婚しふたりの娘を育てながら一戸建ての家を建て、役職に就きながら日々の仕事と子育てに忙殺されて暮らしている。
その一方で僕は不安定な職に就いて好きなことばかりやって生きてきた。今の僕の生活が大変なのはすべて自分の放蕩が招いたことだ。当然だが母はそんな僕に対してそれはもう文句ばかり言っている。
母の兄弟姉妹の子供達が皆順調に育ち安定した職と家庭を持っている。その中で母が肩身の狭い思いをしているのは容易に想像がつく。しかも、プライドの高い母なら尚更だ。
僕は来年還暦を迎える。一昔前のサラリーマンだったら定年退職する年だ。この年で今から母が望むような安定した職だとか高い給料だとかは無理だ。絶対に無理。
だから、僕はヒットを出さなくてはならない。母のためにね。「生んでよかった」と心から感じてもらいたいんだ。