そういえば本当なら今頃ボブ・ディランが来日してるんじゃなかったっけ?
フェイスブックのタイムラインにディランの画像が載っていて、ふと思い出した。
昨年の10月くらいにディラン来日公演が発表されて、チケット代を調べて高すぎて諦めたのを覚えている。
まあ、そりゃあボブ・ディランならチケット高いだろう。
ディランがまともに歌えなくなってるのは最近(といっても数年前だが)のライブ映像を見れば判る。
しかし、僕の中でも特に重要なミュージック・ヒーローのひとりなので、すっかり老い衰えたディランといえど同じ会場に居て同じ空気を吸いたいという衝動が沸いてきてしまった。
「同じ会場に居て同じ空気を吸う」か。
三密だ。今、いちばん危険な環境だ。
いうまでもなくディランの来日公演が中止になったのは新型コロナウイルスのせいだ。
4年前にディランがノーベル文学賞受賞という知らせを聞いたとき、「なんじゃこりゃ」と思った。ディランは反体制の旗手だ。何から何まで反逆精神とクリエイティヴィティの塊だ。それが最高にかっこよかった。
1967年に公開された「Don’t Look Back」というボブ・ディランのドキュメンタリー映画がある。フラワームーブメント/反戦フォークの中心に居たボブ・ディランとジョーン・バエズがいっしょにツアーを回る模様だとか、イギリスでの公演の模様を織り交ぜながら映画は進む。フォークムーヴメントのスーパーヒーローだったボブ・ディランが突然スタイルを変えてロックバンドで「Like A Rolling Stone」を歌って観客から大ブーイングを受けても平然と観客に捨て台詞を吐いて会場を去るだとか、インタビューする記者を攻撃的な口調でがんがんやり込めるだとか、やることなすこといちいち尖りまくっている。そしてルックスが尖りまくっている。もちろん歌も歌詞も尖りまくっている。何から何までかっこいいんだ。
そして驚いたのは、ボブ・ディランの歌声の凄さだ。後年のダミ声のおじさんな印象とはまるで違う。少しハスキーだけど澄んだ力強い歌声。グルニッジヴィレッジを放浪してフォークシンガーとして頭角を現して一大ムーヴメントを作り上げた理由はここにあった。詩人として凄いだけではない。名曲を書くだけではない。歌手として凄かった。
この映画を見て初めて僕はボブ・ディランの本当の凄さを理解した。
さて、ディランのノーベル賞受賞の話に戻る。
思えばこの頃から既に世界が相当に狂っていた。ミュージシャンが文学賞?しかも反体制の旗手が天下のノーベル賞?人選に苦慮したノーベル財団が広く一般受けを狙って日和ったとしか思えなかった。
自然災害、グローバル経済、格差社会、異常な保守化、大国の横暴・・・・どうしようもなくなっていったこの数年間のとどめとして、新型コロナウイルスが世界中で流行した。ボブ・ディランも公演ができなくなった。
How Does it feel?